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1.

食事からのメラトニン摂取、肝がんのリスク低下と関連

 食事からのメラトニン摂取と肝がん罹患との関連を評価する研究が、3万人以上の日本人を対象に行われた。その結果、メラトニンの摂取量が多いほど肝がんのリスクが低下することが明らかとなった。岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学分野の和田恵子氏らによる研究結果であり、「Cancer Science」に2月14日掲載された。 メラトニンは、概日リズムを調整し、睡眠を促す内因性ホルモンである。主に脳の松果体で生成されるが、体内組織に広く分布し、抗酸化、抗炎症、免疫調節などにも関与している。メラトニンは肝臓でも合成・代謝され、細胞保護や発がん予防などの作用があることも示されている。 一方、メラトニンは体外からも摂取される。医療上の用途は主に睡眠の調節に限られるが、肝がんなどの他疾患への臨床応用も期待されている。また、食品中にも含まれることが知られており、含有量が比較的多い食品として、野菜、植物の種子、卵が挙げられる。医薬品やサプリメントと比べると、食品中のメラトニン含有量はかなり少ないが、メラトニンが豊富な食品の摂取により血中メラトニン濃度が上昇することが報告されている。著者らは過去の研究で食事からのメラトニン摂取量が多いほど死亡リスクが低下することを示したが、メラトニン摂取量とがん罹患の関連についてはこれまでに研究されていない。 そこで著者らは、岐阜県高山市の住民対象コホート研究「高山スタディ」のデータを用いて、食事からのメラトニン摂取量と肝がん罹患との関連を検討した。研究対象は、1992年9月時点で35歳以上だった人のうち、がんの既往歴がある人を除いた3万824人(男性1万4,240人、女性1万6,584人)。食事に関する情報を食物摂取頻度調査票(FFQ)から入手し、食品中のメラトニン含有量の測定には液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法を用いた。 その結果、対象者のメラトニンの主な摂取源は、野菜(49%)、穀類(34%)、卵(5%)、コーヒー(4%)だった。エネルギー調整済みのメラトニン摂取量の三分位で3群に分けて比較したところ、メラトニン摂取量の多い群は、女性が多い、糖尿病の既往歴がある、睡眠時間が短い、喫煙歴がない、コーヒーを1日1杯以上飲むなどの傾向が見られた。メラトニン摂取量の少ない群はアルコール摂取量が多かった。 平均13.6年の追跡期間中、189人が肝がんを罹患し、その内訳はメラトニン摂取量の多い群が49人、中間の群が50人、少ない群が90人だった。COX比例ハザードモデルを用いて、患者背景の差(性別、年齢、BMI、教育年数、糖尿病歴、身体活動、喫煙状況、アルコール摂取量、総エネルギー摂取量、コーヒー摂取量、閉経の有無、睡眠時間)を調整して解析した結果、メラトニンの摂取量が少ない群と比べて、中間の群と多い群では、肝がんのリスクが有意に低下する傾向が認められた(ハザード比はそれぞれ0.64と0.65、傾向性P=0.023)。性別による交互作用は見られなかった(交互作用P=0.54)。一方、メラトニンの前駆体であるトリプトファンの摂取量は、肝がんのリスクとは関連していなかった。 以上の結果について著者らは、さらなる研究で確認される必要があるものの、結論として「食事からのメラトニンの摂取により、肝がんのリスクが低下する可能性が示唆された」と述べている。

2.

第207回 消費者がいまだに不安抱える紅麴、医療者による適切な説明は?

小林製薬の紅麹サプリ問題はサプリそのものの服用者だけでなく、紅麹原料を染料に使う食品にまで不安が及んでいるのは周知のことだ。一部の食品会社では消費者からの問い合わせが殺到しているとも聞く。厚生労働省(以下、厚労省)は4月5日付1)で、小林製薬が紅麹原料を直接卸している52社、この当該企業52社などから小林製薬の紅麹原料を入手している173社の計225社について、健康被害の報告はないことを明らかにしている。しかし、やはり消費者の不安は尽きないようで、なぜか私個人にまで知人・友人から問い合わせがくる状況だ。先日はある医療従事者からまで「どう思う?」という連絡をもらった。実はこれらに対して私個人は「現時点ではこれ以上の健康被害が出る可能性は低いのではないか?」と回答している。なぜそう考えるかは過去2回、本連載(第205回、第206回)で触れた3月29日の小林製薬の記者会見で明らかにされた事実関係が「正しい」という前提に立って説明している。ある意味、性善説ではあるが、今はこれしか判断材料がないのが現実である。そこで記者会見で明らかにされた事実関係と、それをベースに私が“可能性が低い”と考える理由について、今回は述べておこうと思う。まず、問題になった紅麹原料について小林製薬が説明した製造過程は、米に水を加えて加熱をし、そこに紅麹菌を加えて培養する。培養終了時点で米、水、紅麹菌の混合物を再加熱し、それを粉砕してから一旦保管。この保管物は培養状態によって有効成分の含有量にバラツキがあるため、保管されたものを複数混合して濃度の均一化を図り、再度、加熱・殺菌し最終段階の紅麹原料が完成する。使う紅麹菌に関しては、親株と言われる菌株からその都度取り分けて培養しているという。この紅麹原料は、▽今回問題になった紅麹コレステヘルプなどに加工・販売(B to C:Business to Consumer)▽食品会社などへの出荷(B to B:Business to Business)、の2つの流通ルートに乗る。小林製薬によると、問題となっている2023年の製造分に関しては、紅麹菌の親株から2度取り分けて別々に培養してから紅麹原料の製造に使用。このうち一方をA株、もう一方をB株と仮定すると、A株からはB to Cが13ロット、B to Bが21ロットの合計34ロット、B株からはB to Bのみ54ロットの紅麹原料がそれぞれ製造され、全ロットのサンプルが残っており、小林製薬側では全サンプルの検査を終了した。この結果、A株のB to Cで4ロット、B to Bで6ロットからプベルル酸と思しき異常な物質が検出されたものの、B株では全サンプルから異常な物質は確認されなかったとしている。これらから、A株で製造された紅麹原料で問題が発生したことは一目瞭然といえる。つまり食品会社などへの販売用だったものはA株由来、B株由来が合計75ロットで、そのうちプベルル酸と思しきものが含まれていたのは6ロットと全体の12分の1未満に過ぎない。さてここで「6ロットもあるのだから健康被害が出る可能性は現時点では低いとは言えないのでは?」という意見もあるだろう。これについては(1)製品の性格上、サプリメントは原料を濃縮するため、有害物質が含まれていた場合はそれらも濃縮される恐れがある/食品用はごく一部を添加するため、含まれる紅麹原料は相対的にサプリメントよりも微量、(2)サプリメントの場合は健康状態の改善を期待して毎日摂取される可能性が高い/一般食品の場合は毎日食べ続ける食品はごく一部、で説明できる。現在、小林製薬から紅麹原料を購入して製品に使っていた食品会社などは、製品の自主回収を進めている。これは厚労省が平成16年に創設した「食品等の自主回収報告制度」に基づくもので、これら企業とその製品は厚労省のHPに一覧が掲載されている。これを見るとわかる通り、主な用途は食品の着色料としてで、毎日必ず摂取する可能性のある食品は少ない。ただし、よく見ると、味噌など食事に毎日使う可能性があるものも含まれている。これについての答えはまさに(1)となる。また、前述の一覧を見るとわかるが、そこには、健康への危険性の程度を示す「CLASS分類」が付記されている。それを見ると、ここに記載された一般食品について、行政側はすべてが「CLASSII(喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が低い場合)」あるいは「CLASSIII(喫食により健康被害の可能性が、ほとんど無い場合)」と評価している。これはまさに(1)が理由と考えられる。もちろんこの解釈の仕方には異議もあるかもしれない。だが、順当に考えるならばこうなるのではないだろうか。今回の一件、ともすると紅麹全体が悪のように考えられてしまいがちだが、小林製薬以外で製造されている紅麹では今のところ何も問題は指摘されていない。少なくとも私はこれらの点から「紅麹」という言葉を一括りにして過度に警戒しすぎるのは考えものと思っている。参考1)厚生労働省:小林製薬社製の紅麹を含む食品に係る確認結果について(令和6年4月5日)

3.

カルシウムとビタミンDの摂取は閉経後女性の全死亡リスクに影響せず

 慢性疾患の予防効果を目的にカルシウムとビタミンDを摂取している更年期の女性をがっかりさせる研究結果が報告された。閉経後女性の慢性疾患の予防戦略に焦点を当てた「女性の健康イニシアチブ(Women's Health Initiative;WHI)」のデータを事後解析した結果、カルシウムとビタミンDの摂取により、閉経後女性のがんによる死亡リスクは7%低下するものの、心血管疾患による死亡リスクは6%上昇するため、全死亡に対する正味の効果はないことが明らかになった。米アリゾナ大学健康推進科学分野教授のCynthia Thomson氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に3月12日に掲載された。 骨の健康を守るために、長年にわたってカルシウムとビタミンDを摂取している閉経後女性は少なくない。しかし、致死的な心疾患やがんなどの慢性疾患に対するこれらの栄養素の予防効果については明確になっていない。 1991年に米国立衛生研究所(NIH)により開始されたWHIは、数十年にわたって閉経後女性の健康を追跡してきた大規模研究で、数万人の女性が登録されている。今回の研究テーマである、閉経後女性でのカルシウムとビタミンDの摂取効果については、2006年に初めて、7年間の追跡データの解析結果が報告されていた。研究グループによると、その結果は「ほとんど効果なし」というものだった。 今回の研究では、長期追跡データを解析することでこの結果に変化が認められるのかどうかが調査された。対象は、3万6,283人の閉経後女性で、乳がんや大腸がんの既往がある者は含まれていなかった。女性は、1日1,000mgの炭酸カルシウム(カルシウム含有量としては400mg)と400IUのビタミンD3を摂取する群(CaD群)とプラセボを摂取する群(プラセボ群)に1対1の割合でランダムに割り付けられていた。 その結果、累積追跡期間中央値22.3年の経過後にCaD群で1,817人、プラセボ群で1,943人ががんにより死亡しており、前者では後者に比べてがんによる死亡リスクが7%低下することが示された(ハザード比0.93、95%信頼区間0.87〜0.99)。一方、心血管疾患による死亡については、CaD群では7,834人、プラセボ群では7,748人が確認されており、前者では後者に比べて死亡リスクが6%高いことが示された(同1.06、1.01〜1.12)。それゆえ、死亡リスクという点でカルシウムとビタミンD摂取の有益性は確認されなかった。 Thomson氏は、「カルシウムサプリメントの摂取が冠動脈の石灰化を促し、心血管疾患による死亡リスクを増加させる可能性は考えられる」との見方を示している。 研究グループはこの研究の結論として、「閉経後女性を20年以上追跡した調査の解析結果に基づくと、カルシウムとビタミンDの摂取は、がんによる死亡リスクを低減する一方で心血管疾患による死亡リスクを増大させ、結果的に全死亡リスクには影響を及ぼさないことが明らかになった」と述べている。

4.

阿部養庵堂薬品講演会

人生100年時代とは、人の寿命が100歳になるということではなく健康的に体感年齢も100歳に近づくとともに、活力も見た目も若々しくいられる時間が飛躍的に伸びている状態のことです。そんな社会を実現するために欠かせない成分『NMN』。ただ「サーチュイン遺伝子の活性化を促すNADの前駆体」というだけの情報ではなく、健康にも美容にも大きく寄与するNMNの実態について、東京理科大学教授の斎藤先生とNMNサプリメントの食品認可をリードした阿部養庵堂薬品代表の阿部 朋孝がお伝えします。第1部第1部NMNが人体に与える影響と医療との関わり方第2部第2部NMN製品の闇と今後の抗老化ソリューションアマゾン創業者のジェフ・ベゾス、Google設立者のセルゲイ・ブリンなど、名だたる最先端テックのファウンダーが抗老化技術へ莫大な資金を投下し、不老長寿の夢を実現させようとしています。そんな中、投資の神様ウォーレン・バフェットや香港の不動産王である李嘉誠も自ら投資、そして摂取する成分NMNが数年前から話題となっています。しかしNMNはエイジングの鍵となる魅力的な成分であるだけに、間違った情報や効果の期待できない製品が氾濫しているのが現状です。ドクターという立場だからこそ、ミスリードされた情報に流されずに、そして一人の人間としていつまでも若々しくいるために必要な情報をキャッチしてください。

5.

第206回 紅麴サプリ、小林製薬に問われた2つの論点(後編)

3月29日に大阪市内で開かれた紅麹サプリの健康被害に関する記者会見。冒頭でテレビ朝日の報道ステーションのキャスター下村 彩里氏の質問以降も、この時点で一切可能性として名前が挙がっていなかった原因物質に関する質問が相次いだ。以下、質問に対する小林製薬側の回答を会見での質疑応答の順に抜粋する。*梶田氏、渡邊氏とは、それぞれ同社の梶田 恵介氏(ヘルスケア事業部食品カテゴリー カテゴリー長)、渡邊 純氏(執行役員/信頼性保証本部 本部長)のこと。「(原因の可能性がある)想定していない成分は、だいぶ構造体は見えていますが、国の研究機関とともに解明を進めていきたいというふうに考えております。紅麹と言われる原料にはさまざまな成分が入っており、今回の想定していない成分と何らかの相互作用で悪影響を及ぼした可能性も現在は否定できない。(国の研究機関との連携による原因確定までは)プランが私どものほうにはまだ見えていないので、現時点は迅速に対応をしていくと回答させていただく」(梶田氏)「未知の成分と紅麹由来の成分が新しい生成物を引き起こしたことを否定はできないが、可能性は限りなく少ないと思っている。何か新しい成分が入ったことは、推定はしているが、国の研究機関とともにわれわれの持っている情報を提供しながら、迅速に解決に向けて進めていきたい」(梶田氏)「一刻も早く原因物質を特定し、それが疾患を起こしていたことを明確にしたいのですが、そこが非常に難しく、特定して発表するに至らないところ」(渡辺氏)「環状構造体ということしかわかっていないので、実際にはこれから論文調査を本格的に進めて解明していく計画」(梶田氏)「さまざまな構造体がわれわれの中では仮説があり、それぞれの腎疾患との関連性に大小がある。その1つには、そういう(腎疾患と関連がある)ものがあるが、それと今回の健康被害を紐付けてよいのか、われわれではまだ判断できていない」(梶田氏)質疑当初、原因物質についてはかなり暗中模索のようにも思えたが、「論文検索」や「仮説」などから、かなり絞り込まれているのがわかる。この時点で私自身は、小林製薬側は可能性の高い原因物質を1~2種類くらいに絞り込んでいるのではないと考えていた。というのもこの会見に先立つ3月22日の記者会見で小林製薬側が記者に配った補足資料(なぜか同社公式HPにはアップされていない)を入手しており、それによると3月16日時点で「一部の製品ロットと紅麹原料ロットにおいて通常は見られないピークを検出」という記述があったからだ。「ピーク」という表現からは、ガスあるいは液体のクロマトグラフ分析を実施したことをうかがわせていた。そして会見開始から約58分、前述の下村氏から数えること9番目の質問指名が自分に回ってきた。原因物質は混入したのか、生成されたのか前述した記者会見の補足資料で、未知の成分が紅麹原料と製品の双方の一部から検出されたと記述されていることから、 私はまず“今回の健康被害の原因物質と考えられるものは、紅麹原料の製造過程で混入あるいは生成されたと同社が考えているか”を尋ねた。これに対して山下 健司氏(執行役員/製造本部本部長)が「はい、そのように考えております」と回答した。続いて尋ねたのは、この時点での“紅麹原料の製造手順書と現場のオペレーションに相違がなかったかの調査の有無”である。これに対しても山下氏が「現時点で調査を進めている状況。この点で何らかの問題があったと今のところは認識していない」とのことだった。実は最も聞きたかったのは3番目の質問だった。クロマトグラフによる分析をしているなら、原因の可能性のある物質の分子量を特定できているのではないかということだった。これには梶田氏が回答した。私はその言葉を一つも漏らすまいと梶田氏のほうを凝視した。「われわれの推察ではだいたいわかっておりまして、150~250ぐらいの間の分子量ではなかろうかと、データではわかっている」数字が出た、と内心思った。ただ、私は引き続き質問を続けた。それはこれまで多くの医師が原因ではないかと疑っていたシトリニンの件である。それまでの小林製薬側の説明では「検出されなかった」としているが、これが本当にゼロを意味するのか、それとも検出限界以下だったかということだ。これについては梶田氏が「外部の機関で測定しまして不検出(すなわちゼロ)」だったと説明した。この後、ドラッグストアでの対応も聞いたが、ここでは詳細は省いておく。とりあえず合計5つの質問をして一旦切り上げた。ほかの記者もいるし、小林製薬側はすべての質問に答えるとあらかじめ言っているのだから、2回目の質問をすればよいと思ったのだ。「それでも1回の質疑で5問は多過ぎだろう」と批判されるかもしれないが、記者会見はすべて現場のみの勝負。小林製薬側も質問数は限定していなかった。ここで聞かないで、後でうっかり忘れてしまうこともなくはない。また、4人もの責任者が並んでいる以上、この場を逃す手はないからである。一部に「会見での質問はできるだけ絞って後で広報部門に確認すれば?」と、メディア関係者外のみならずメディア関係者内でも口にする人がいるが、これも私は違うと思っている。問い合わせを受けた担当者から上位に役職者が多いか否かで、同じ質問に対する相手の回答はかなり変化してくるのだ。有体に言えば、よりシャープな言葉も数多くの人を経るにしたがって丸くなり、ゼロ回答のような結果になることは少なくない。原因物質は低分子化合物さて会見の話に戻そう。分子量150~250という回答を得て、その後、私の頭の中はこのことで一杯になった。まず、この分子量は、大雑把に言えば低分子と高分子の境界のやや低分子よりになる。しかも、問題の製品が紅麹菌から作られることを考え合わせても、合成化合物よりも天然化合物の可能性が高い。ただ、分子量150~250の天然化合物といってもたくさんある。何だろうと思いながら、最初に疑われたシトリニンがカビ毒の1種、いわゆるマイコトキシン類だったことを思い出し、ほかの記者の質疑に耳をダンボにしながらも、スマートフォンで検索を始めた。なかなかこれぞというモノが見つからない。会見開始から約2時間。有料ネットニュースサイト「NewsPicks」副編集長の須田 桃子氏(元毎日新聞記者、「捏造の科学者 STAP細胞事件」で2015年に大宅壮一ノンフィクション賞受賞)がオンラインから質問をしていた。それに対する回答の中で梶田氏が「シトリニンの分析は終わり不検出、そのほかのカビ毒だと言われている成分も数種類分析をしてこちらも不検出」との説明が耳に入った。カビ毒ではないのか。振り出しに戻ったと思いながら、再びほかの記者の質疑応答に耳を傾けながら、合間に無駄とは知りつつ原因物質が何かについて思考をめぐらした。ちょうど16時20分、スマホに入っているFacebookメッセンジャーが立ち上がった。知人の大手紙記者からである。「16時からの厚労省会見では物質名を出していますよ。プベルル酸。青カビから出る物質で、抗マラリア薬。強い毒性のある抗生物質」は? 何だそれ? 確かに16時から厚生労働省、国立医薬品食品衛生研究所、小林製薬の合同会見があることは聞いていた。しかし、そっちで可能性のある物質名を出したとは。しかも、「プベルル酸って何?」。私自身は初めて聞く化合物である。2回目の指名を受けるために挙手し続けながら、再びスマホで検索をするが、ほとんどそれらしい情報がひっかからない。それから4分後、毎日新聞の記者が「厚生労働省が今、記者会見しているそうなんですが、未知の物質がプベルル酸と同定されたとの発表があったのですが、それについて説明をしてください」と質問した。これに対し、梶田氏は「われわれが意図しない成分の候補との一つとして、先ほど申し上げたプベルル酸をこれじゃなかろうかということで、厚労省に情報提供した。(人体への影響は)まだわれわれの文献調査等々が追いついていない」と回答した。毎日新聞の記者からは、会見冒頭から原因の可能性が高い物質名について小林製薬側は一切言及せず、同時進行の会見で厚労省側から発表があったことの齟齬も質問されたが、梶田氏は「われわれは事前に把握をしていなかった」と答えるに留まった。プベルル酸に対する小林製薬側の主張以後、プベルル酸に関する質問の小林製薬側の主な回答は以下のようなものだ。「プベルル酸の可能性に気付いたのは3月25日夜」「微量ながらも青カビから生成の可能性としてあるため、青カビが生えるようなところがないか、今、製造ラインすべてを点検中」「(プベルル酸の異性体の数は)最近、調査結果が明らかになったばかり。われわれはまだ把握できていない」「(プベルル酸と紅麹などの相互作用は)われわれは取り扱ったことがなく、どのような作用を持っているのかは、正直、わかっていない」。「(紅麹自体がプベルル酸を産生する可能性は)われわれが持っている分析(結果)からは生成しにくいと考えている」再び質問、プベルル酸の50%致死量は?会見開始から4時間5分。再び指名を受けた。この時点でもネット検索で確たる情報が得られなかったので、私は“プベルル酸の50%致死量(LD50:Lethal Dose 50)のデータを把握しているか”を尋ねた。梶田氏からは「そこまでの情報が把握できていない」との回答だった。2つ目の質問として、“今回のプベルル酸が検出された紅麹原料の大本である米、水、紅麹菌のサンプルが残っていないか”を尋ねたが、残っていないとのこと。加えて今回、同時並行の厚労省側の会見に小林製薬も参加しながら、プベルル酸の名称が公開されることを知らなかったことについて確認を求めたが、梶田氏によると「発表内容まではわれわれは把握していなかった」とのことだった。この後、5~6人の質問で会見は終了となった。外はすでに真っ暗になっており、私は急ぎ東京行きの新幹線に飛び乗った。この帰りの新幹線内で、「そうだ!」と思い付き、Google検索で「プベルル酸 acid」とAND検索を掛けた。そこから「puberulic acid」の単語が見つかった。会見場では焦っていたので、こんなことも思いつかなかったのだ。そこでPubMedにこのキーワードを入れたところ、ヒットした論文はわずか6本。これほど報告が少ない物質なのかと驚いた。となると、完全に原因として特定され、かつ混入した経路を特定するには、相当な時間がかかるだろう。これは長丁場の事件になると、改めて思っている。

6.

認知機能の低下抑制、マルチビタミンvs.カカオ抽出物

 市販のマルチビタミン・ミネラルサプリメント(商品名:Centrum Silver、以下「マルチビタミン」)の連日摂取が高齢者の認知機能に与える影響を詳細に調査したCOSMOS-Clinic試験の結果、マルチビタミンを摂取した群では、プラセボとしてカカオ抽出物(フラバノール500mg/日)を摂取した群よりも2年後のエピソード記憶が有意に良好で、サブスタディのメタ解析でも全体的な認知機能とエピソード記憶が有意に良好であったことを、米国・Massachusetts General HospitalのChirag M. Vyas氏らが明らかにした。The American Journal of Clinical Nutrition誌2024年3月号掲載の報告。 これまで、二重盲検無作為化2×2要因試験「COSMOS試験※」のサブスタディでは、電話やインターネットを用いた認知機能に関する評価において、マルチビタミン群ではカカオ抽出物群よりも良好な結果であったことが報告されている。しかし、対面式の詳細な神経心理学的評価は行われていなかった。そこで研究グループは、神経心理学的評価を対面で行って認知機能の変化に対するマルチビタミンの影響を検証するとともに、COSMOS試験のサブスタディのメタ解析も実施した。※COSMOS試験:60歳以上の米国成人2万1,442例を対象として、マルチビタミンおよび/またはカカオ抽出物の連日摂取によって心血管疾患およびがん発症リスクが軽減するかどうかを調査した大規模試験。無作為化は2015年6月~2018年3月に行われ、2020年12月31日まで追跡された。 COSMOS-Clinicの解析対象は、60歳以上で、ベースラインおよび2年後に対面で神経心理学的評価(45分間)を受けた573例であった。主要アウトカムは11つのテストの平均標準化スコアによる全体的な認知機能で、副次アウトカムはエピソード記憶、実行機能/注意力であった。メタ解析には、3つのCOSMOS試験のサブスタディ(COSMOS-Clinic[573例、2年間、対面]、COSMOS-Mind[2,158例、3年間、電話]、COSMOS-Web[2,472例、3年間、インターネット])を用いた(重複する参加者を含めずに実施)。 主な結果は以下のとおり。COSMOS-Clinic試験・参加者はマルチビタミン群272例(平均年齢69.3歳、男性51.1%)、カカオ抽出物群301例(69.8歳、50.5%)に無作為に割り付けられた。両群ともに2年後でも90%超がアドヒアランス良好であった。・エピソード記憶については、マルチビタミン群の平均標準化スコア(高いほど良好)はベースライン時0.01、2年後0.36、カカオ抽出物群はそれぞれ-0.01、0.23、平均差は0.12[95%信頼区間[CI]:0.002~0.23])であり、マルチビタミン群ではカカオ抽出物群と比較して統計的に有意な改善が認められた。・全体的な認知機能(平均差:0.06[95%CI:-0.003~0.13])および実行機能/注意力(0.04[-0.04~0.11])は、有意差はなかったもののマルチビタミン群で良好な傾向を示した。サブスタディのメタ解析・全体的な認知機能は、マルチビタミン群ではカカオ抽出物群と比較して、統計的に有意な改善が認められた(平均差:0.07[95%CI:0.03~0.11]、p=0.0009)。・エピソード記憶でも、マルチビタミン群では統計的に有意な改善が認められた(平均差:0.06[95%CI:0.03~0.10]、p=0.0007)。・マルチビタミン群の全体的な認知機能に対する効果は、2歳離れたカカオ抽出物群と同程度であり、マルチビタミン群の認知機能の老化を2年遅らせたことに相当する。

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腎臓学会が紅麹サプリ調査を実施、多い症状は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第129回

小林製薬の「紅麹」の成分を含む健康食品を摂取し、死亡を含む腎障害などの健康被害が生じたという報告が相次いでいます。厚生労働省は、4月1日の時点で166人が入院したことが小林製薬からの報告で明らかになったと発表しました。被疑成分として「プベルル酸」が挙げられていますが、まだはっきりとはしていません。紅麹原料はさまざまな食品に含まれていることもあり、被害はさらに広がる可能性があります。厚生労働省と消費者庁は紅麹を使用した製品に由来する健康被害について、国民や事業者からの問い合わせに応える電話相談窓口を合同で設置するとしています。これらの報道を受け、日本腎臓学会は3月29日に学会員を対象とした「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケートを実施し、3日ほどで47例の報告が集まったとして4月1日に中間報告を発表しました。ものすごい早さで情報が収集され、ものすごい早さで中間報告が出されたことに驚いています。その中から、特徴を抜粋してお伝えします。患者は30~70歳代まで認められるが、40~69歳が約9割を占める。やや女性に多い。服用開始は約4割の人が1年以上前(服用開始時期2023年3月以前)で、服用期間が短期間の人(開始時期2023年12月、2024年1月、2月)も発症している。受診日は2023年11月以降で、1月以降の受診が約8割を占める。初診時の主訴は、半数以上が倦怠感や食思不振、尿の異常、腎機能障害。腹部症状や体重減少を訴える人も少なからずいる。発熱や嘔吐、頻尿、浮腫や体重増加などは比較的少ない。また、「紅麹コレステヘルプに関連した健康被害として、この中間報告でお示しした以外の病態を否定するものではありませんが、被疑剤を服用された場合、被疑剤の服用を中止するとともに、腎機能検査や尿蛋白に加えて、尿糖や血清カリウム値、尿酸値、リン値、HCO3-値の測定は重要」とありますので、上記に当てはまる場合は受診を勧めるほうがよさそうです。皆さんの薬局でも健康食品に関する相談や不安の声が寄せられているかもしれません。この件にまったく関係のない健康食品を摂取している人が不安になったり、ひいては医薬品の服用を急にやめてしまったりするなどの影響も生じかねません。今回は日本腎臓学会によって異例の早さで情報収集および中間報告がされましたが、4月末まで回答を受け付けていて、また改めて発表されるようです。ぜひこれらの情報を活用して患者さんの安心につなげたいですね。

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小林製薬サプリ摂取者、経過観察で注意すべき検査項目・フォローの目安

 小林製薬が販売する機能性表示食品のサプリメント『紅麹コレステヘルプ(以下、サプリ)』による腎機能障害の発生が明らかとなってから約2週間が経過した。先生の下にも本サプリに関する相談が寄せられているだろうか。日本腎臓学会が独自で行った本サプリと腎障害の関連について調査したアンケートの中間報告1)から、少しずつサプリ摂取患者の臨床像が明らかになってきている。 そこで今回、日本腎臓学会副理事長である猪阪 善隆氏(大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授)に、摂取患者を診療する際に注意すべき点、患者から相談を受けた場合の対応について緊急取材した。猪阪氏は全国の医師に対し、「医師が診療する際に注意すべき点として、電解質異常や腎機能障害が改善されない症例は専門医へ紹介してほしい。また、患者に対して、“過度な心配は不要”であることを伝えてほしい」と呼び掛ける。その理由は―。Fanconi(ファンコニー)症候群 日本腎臓学会のアンケート中間報告によると、今回報告された症例の多くにFanconi症候群を疑う所見が目立っていたと示唆されている。このFanconi症候群とは、腎臓専門医でも診療経験を有する医師は少ない、比較的まれな疾患だという。本疾患の概要を以下に示す。◆疾患概念・定義:近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により、本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中への過度の喪失を来す疾患群で、ブドウ糖(グルコース)、重炭酸塩、リン、尿酸、カリウム、一部のアミノ酸などの溶質再吸収が障害され、その結果として代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水、くる病などを呈する2)。◆原因:原因は多岐にわたり、発症年齢も乳児期から成人と多様。先天性のものではDent病、ミトコンドリア脳筋症をはじめ、原因不明の症例が国内では多く、後天性(二次性)のものとしては悪性腫瘍やネフローゼ症候群のほか、一部の抗腫瘍薬(シスプラチンなど)、バルプロ酸、抗ウイルス薬などの薬剤の使用が起因している2)。近年ではNSAIDsによる報告もみられる。◆主な症状:代謝性アシドーシスの特徴ともいえる疲労や頭痛のほか、筋力低下や骨の痛みなど。 猪阪氏は本病態とアンケートの中間報告を総合し、「今回寄せられた症例の場合、1/4の患者にステロイドが使用されていた。今回は専門医による対応であったことから、間質性腎炎の診断・治療に準じて腎生検を行い、炎症レベルを考慮しての治療であった。一般内科の医師の場合には、まず被疑薬の中止を行い、注意深く経過観察を続けてもらいたい」と治療方法について説明した。中間報告後に明らかになった電解質異常 上述したFanconi症候群のような所見を疑うには、日常診療で行っている尿検査や生化学検査、血液学検査をオーダーするなかで、電解質の項目に注意を払う必要があると同氏は強調した。「集まった症例をみると電解質異常が多くみられた。カリウム(K)値は本疾患においても低K血症による不整脈発症の観点から重要ではあるが、今回とくに注意が必要なのは、一般的な血液検査に含まれないリン(P)や重炭酸イオン(HCO3-)の変化」と同氏は話した。その理由として「ナトリウム(Na)値やK値は日頃から注意すべき項目として目が行きがちだが、血清P値や血液ガス分析によるHCO3-濃度の測定は、非専門科では日常的に行う検査ではないので、ぜひ意識してオーダーし、経過を診ていただきたい」と述べ、「サプリの摂取を中止しても代謝性アシドーシスの状態が続いている場合もあるため、その場合には専門医の診断が必要」と説明した。また、「電解質異常がどこまで完全に回復してくるのかは今後の検証が待たれる」ともコメントした。電解質異常が残るような症例は専門医へ 専門医へ紹介するタイミングについて、同氏は「本サプリの問題が報道される前の時点では、腹痛などの症状を訴える→症状に応じた検査を実施→問診でサプリ摂取が判明→腎機能検査という診断の流れもあったようだ。しかし、今はサプリの影響が強く疑われ、すでに不安を抱えた患者さんは一通り受診を終えられているかと思う」と前置きをしたうえで、「被疑薬を中止した場合、約2週間で改善する傾向にある。中止したことで腎機能の改善がみられる場合は、そのままかかりつけ医での経過観察で問題ないため、正常値まで改善するのをフォローしてほしい。しかし、腎機能が十分改善しない場合や、上述のとおり電解質異常が残る場合には、早めに専門医へ紹介してほしい。また、症状が重症と考えられる患者についても同様」と紹介すべき患者の見極め方を説明した。 このほか、アンケート結果では尿の異常として血尿が報告されているが、これについては「サプリ摂取による腎障害が原因で生じたものではなく、潜在的にあった原疾患による可能性も考えられる」と説明した。また、本サプリを服用して来院した患者であっても、それ以外のサプリや薬剤を服用している可能性の高い患者も多いため、「原因をサプリに絞り込まずに鑑別していくことが必要」とも補足した。 なお、アンケート結果は5月に取りまとめて報告する予定であり、今年6月28~30日に横浜で開催される第67回日本腎臓学会学術総会でも緊急シンポジウムの開催が検討されている。

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第189回 紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省

<先週の動き>1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省厚生労働省は、小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品に関連する健康被害について、入院者数が延べ196人、受診者数が1,120人を超えたと発表した。この問題は国内で広がりをみせており、相談件数は約4万5,000件に上っている。厚労省は、無症状の人でも医師が必要と判断すれば、保険診療での診察や検査を許可する措置を講じた。立憲民主党は、このような健康被害があった場合に迅速な報告義務を課す制度改正を政府に要請する方針を明らかにした。また、小林製薬は、製品が安全に摂取できると言えないとの見解を示し、紅麹原料の製造過程で温水が混入するトラブルがあったことも公表したが、健康被害との直接的な関連は不明としている。この一連の問題に対し、消費者庁や厚労省は、紅麹を含む製品による健康被害の原因究明と、被害拡大防止のための対策を強化している。参考1)健康被害の状況等について[令和6年4月4日時点](厚労省)2)疑義解釈資料の送付について[その65](同)3)「紅麹を含む健康食品等を喫食した者」、無症状でも、医師が喫食歴等から必要と判断した場合には、保険診療で検査等実施可-厚労省(Gem Med)4)小林製薬「紅麹」、受診1,100人超 健康被害どこまで(日経新聞)5)健康被害で報告義務を=機能性食品、政府に要請へ-立民(時事通信)6)報告義務の法制化「必要あれば迅速に」 紅麹サプリ問題で武見厚労相(朝日新聞)7)紅麹製造タンクで温水混入トラブル、小林製薬「健康被害との関係不明」…公表2週間で受診1,100人超(読売新聞)2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省厚生労働省は、オンライン診療の適切な実施に関する新たな指針を公表し、特定の医薬品の処方に関する制限を明確にした。これにより、オンライン診療の初診では麻薬・向精神薬、抗がん剤、糖尿病治療薬などの特定薬剤の処方が禁止され、これらの情報を過去の診療情報として扱うこともできなくなる。この措置は、患者の基礎疾患や医薬品の適切な管理を確保するため、および不適切な処方を防ぐために導入された。オンライン診療では、患者から十分な情報を得ることが困難であり、医師と患者の本人確認が難しいため、安全性や有効性を保証するための規制が設けられている。厚労省は、新たな課題や医療・情報通信技術の進展に伴い、オンライン診療指針およびその解釈のQ&Aを更新し続けている。また、オンライン診療で糖尿病治療薬をダイエット薬として処方するなどの不適切な事例にも対処。これにより、医療機関はオンライン診療の際に、医師法や刑事訴訟法に基づく適切な手続きを踏むことが強く求められる。とくに、医師のなりすましや患者情報の誤りが疑われる場合は、警察との連携を含む厳格な対応が促されている。さらにオンライン診療では、基礎疾患の情報が不明な患者に対しては、薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤の処方を避け、8日分以上の薬剤処方を行わないことで、一定の診察頻度を確保し、患者観察を徹底することを求めている。参考1)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A[令和6年4月改訂](厚労省)2)オンライン初診では麻薬や抗がん剤、糖尿病薬などの処方不可、オンライン診療の情報を「過去の診療情報」と扱うことも不可-厚労省(Gem Med)3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省厚生労働省は、医療広告に関する規制をさらに強化を図るため、事例解説書の第4版を公表した。今回の改定では、誤解を招く誇大広告や、いかなる場合でも特定の処方箋医薬品を必ず受け取れるとする広告など、不適切な医療広告に対処する内容の改定となった。新たに追加された内容では、GLP-1受容体作動薬の美容・ダイエットを目的とした適応外使用に関する違反事例が散見されることに対応し、特定の処方箋医薬品を必ず受け取れる旨を広告することを禁止するほか、SNSや動画を含むデジタルメディア上での広告事例が含まれ、ビフォーアフター写真の説明が一切ないままの使用、治療内容やリスクに関する不十分な説明が禁止される事例が明確にされた。また、自院を最適または最先端の医療提供者と宣伝することも禁じられている。これらの更新は、患者が正確な情報に基づいて医療サービスを選択できるようにすることを目的とし、今後ガイドラインの遵守を求めていく。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第4版](厚労省)2)医療広告「自院が最適な医療提供」はNG 厚労省が事例解説書・第4版(CB news)3)「必ず処方薬が受け取れる」はNG、オンライン診療広告 厚労省、解説書に事例追加(PNB)4)2024年3月 医療広告ガイドラインの変更点まとめ(ITreat)4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会日本消化器外科学会が、昨年学会員に対して行った調査で、消化器外科医が直面している厳しい労働環境が明らかになった。2023年8月~9月にかけて65歳以下で、メールアドレスの登録がある会員1万5,723名(男性1万4,267名[90.7%]、女性1,456名[9.3%])を対象にアンケート調査を行ったところ、2,923人(18.6%)から回答を得た。その結果、月に80時間以上の時間外労働を報告した医師が全体の16.7%に上り、さらに100時間以上と回答する医師が7.6%と、「医師の働き方改革」で定められた年間960時間の上限を超える勤務をしていることがわかった。また、当直明けに手術を行う医師が7割以上を占め、「まれに手術の質が低下する」と回答した医師が63.3%に達した。この結果は、過酷な勤務条件が医療の質に潜在的なリスクをもたらしていることを示唆している。さらに、医師の働き方改革が導入される直前の調査では、労働環境の改善がみられるものの、賃金の改善が最も求められていることが明らかになった。医師は、兼業が収入の大きな部分を占め、とくに手術技術料としてのインセンティブの導入を望んでいる。また、次世代の医師に消化器外科を勧める会員は少数で、これは消化器外科医を取り巻く環境に対する懸念を反映したものとなった。同学会では、労働環境の改善、とくに賃金体系の見直しは、消化器外科医の減少に歯止めをかけ、消化器外科の将来を守るために積極的に取り組む必要があり、今後も高い品質の外科医療を提供し続けるために不可欠であると結論付けている。参考1)医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状(日本消化器外科学会)2)消化器外科医の当直明け手術、「いつも」「しばしば」7割超…「まれに手術の質低下」は63%(読売新聞)5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会2022年度の看護職員の離職率が11.8%と高い水準で推移していることが、日本看護協会による病院看護実態調査で明らかになった。正規雇用の離職率は11.8%、新卒は10.2%、既卒は16.6%と報告されている。医療・介護ニーズの増加と現役世代数の減少が見込まれる中、医療機関における看護職員の離職防止が一層重要な課題となっている。また、看護職員の給与に関しては、勤続10年での税込平均給与が32万6,675円となっており、処遇改善評価料を取得した病院では、看護職員の給与アップ幅が大きくなっている。この調査結果は、看護職員の離職率が高い状況を背景に、看護職員のサポートと業務効率化が急務であることを示しており、看護職員から他職種へのタスク・シフトを進めることの重要性を強調している。これにより、医療現場での働きやすさの向上と医療提供体制の確保が求められている。同協会は、看護師の離職防止のために看護業務効率化ガイドを公表し、医療現場での業務効率化の事例を紹介している。この中で、業務効率化のプロセスやノウハウを示し、医師の働き方改革を支える看護職員の業務効率化に焦点を当てている。具体的な業務効率化の取り組みとしては、記録業務のセット化や音声入力機器の導入などが示されている。参考1)「2023年 病院看護実態調査」結果 新卒看護職員の離職率が10.2%と高止まり(日本看護協会)2)「看護業務効率化先進事例収集・周知事業」報告書(同)3)新卒の看護職員10人に1人が離職 23年病院看護実態調査 日看協(CB news)4)看護業務を効率化するガイドを公表、日看協 ホームページなどに掲載(同)5)コロナ感染症の影響もあり、2021年度・22年度の看護職員離職率は、正規雇用11.8%、新卒10.2%、既卒16.6%と高い水準-日看協(Gem Med)6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会日本児童青年精神医学会は、18歳未満の子供や若年層への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)の使用に対し、「非倫理的で危険性を伴う」との声明を発表し、この治療法の適用に強い倫理的懸念を示した。とくに発達障害を扱う精神科クリニックが、適応外でありながら、専門家の適正使用指針に反して、未成年者への施術を勧めるケースが問題視されている。TMSは、頭痛やけいれん発作などの副作用が報告されており、子供への有効性と安全性については現時点でエビデンスが不十分とされている。日本国内では2017年9月に厚生労働省が医療機器として薬事承認し、治療抵抗性うつ病への対応として帝人のNeuroStarによるrTMSを承認したが、日本精神神経学会は、とくに未成年者への施術にはさらなる臨床研究が必要としている。今回、同学会が指摘した倫理的な問題としては、一部のクリニックが患者の不安を利用し、高額な治療費用のためにローンを組ませる事例がある。今回の声明は、未成年者へのTMS治療の実施に当たっては慎重な検討を求めている。参考1)子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明(日本児童青年精神医学会)2)反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(改訂版)(日本精神神経学会)3)「非倫理的で危険」と学会声明 子どもへの頭部磁気治療で(東京新聞)

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第205回 紅麴サプリ、小林製薬に問われた2つの論点(前編)

4時間31分。長丁場が予想されたとはいえ、これだけの時間を費やした記者会見は久しぶりだった。3月29日に大阪市で行われた紅麹サプリ問題に関する小林製薬の記者会見のことである。改めて今回の顛末を振り返っておきたい。ことが表面化したのは3月22日。小林製薬が同社の機能性表示食品『紅麹コレステヘルプ』を摂取した人で腎障害などが発生し、同製品と使用している紅麹原料の分析から一部に意図しない成分が含まれている可能性が判明したと公表。同社の紅麹関連製品の使用中止を呼びかけ、製品の自主回収も表明した。同時点で発表された健康被害が疑わしい事例は、入院6例(うち5例は退院)、通院7例だったが、3月25日までに入院は26例に増加。翌3月26日には摂取との因果関係が疑われる死亡者1例がいたことが公表され、事態は一気に深刻化した。3月27日には生前に紅麹コレステヘルプを摂取していた死亡者2例が追加で報告された。同日、同業者から「明後日(29日)、小林製薬が大阪でこの件の記者会見を開くらしい」との情報が飛び込んで来た。私は「さて、どうしよう?」とやや考え込んでしまった。29日は2ヵ月前から参加を予定していた午後7時スタートの講演会が東京駅近くで開催される。経験上、午後4時過ぎに終了すれば、なんとか間に合う。小林製薬は上場企業であるため、午前の会見はないだろう。内容次第で午後の株価が大荒れ模様になるからだ。現在はテレビ各社が会見をネットでリアルタイム配信する時代なので、市場が閉まる午後3時スタートが有力と予想し、オンラインとのハイブリッド会見ならば、オンラインで参加しようと半ば決めていた。翌28日、小林製薬の会見開催情報が確実に流れるであろう大手メディアの記者と専門紙記者の2人に会見情報が入ったら教えて欲しいと伝えると、そのうち1人からは午後2時過ぎに「大阪市内で午後だけは確か」と教えられた。午後5時過ぎ、「午後2時」の一報が大手メディア記者から入り、間髪置かずに専門紙記者からも同じ情報が入った。ここから30分以内に情報提供をお願いしていなかった記者2人からも同じ情報が入ってきた。ありがたいことである。結局、予定していた講演会の演者の話は後日どこかで聞ける可能性は十分あるが、小林製薬のこの会見はこの日しかないと思い、某旅行サイトのホームページ(HP)で大阪市内のホテルを探し始めた。しかし、同日夜の大阪市中心部のホテルは、最安値で1万1,000円超。何度もHPをリロードしていると、突如6,000円台のホテルが表示された。即時に予約し、荷物をまとめて本来翌日するはずだった雑事を済ませて東京駅に向かい、新大阪行きの新幹線に飛び乗った。大阪市内のホテルに到着したのは日をまたいだ午前0時過ぎだった。新幹線内で今回の件に関する資料を大量に読んでいたせいか、ホテルに着くなり睡魔に襲われ、服を着たままベッドの上で眠りこけてしまった。目を覚ましたのは午前6時過ぎ。急いで入浴し、コーヒーを何杯も飲みながら午前11時のチェックアウトまで再び資料に目を通し、質問項目を練った。チェックアウト後、早めに大盛りの昼食。体重管理が日常化したここ数年、大盛りの外食は極力避けていたが、長丁場が予想されたための選択だった。29日、記者会見当日。会見場所のJR大阪駅近くの貸会議室のあるビルには午後1時10分頃に到着したが、すでにエントランスはベルトパーテーションが設置され、テレビカメラが参集していた。誘導している小林製薬社員に会見参加のために来場したことを告げると、「23」という印字された整理券を渡された。開始前にこの順でエレベーターに案内するという。そこで手持ち無沙汰にしていると、顔見知りのあるメディアの若い女性記者が「知っている人がいた」と駆け寄ってきた。どうやら還暦が見え始めているオジサン記者の私は、薬局前のオレンジのゾウさん「サトちゃん」のような役回りらしい(笑)。この女性記者が「お昼、食べそこなったんですよね」とぼやくので、「長丁場だろうから食べておいたほうが良いよ。そこにコンビニあったでしょう」と伝え、私は彼女の荷物番となった。いざ会見へ午後1時40分過ぎ、小林製薬社員による会場への誘導が始まった。会場内に入った時点で、小林製薬社長の小林 章浩氏を含む幹部4人が着席予定のテーブル前の記者席は埋まっていたため、私は司会者ボックス前の最前列に陣取った。机の上には資料が2枚。1枚は現在同社HPにも掲載されている「紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ(第6報)」。もう1枚は「参考資料」と題するものだったが、それを確認する前に社員が一斉に資料を差し替えるとして回収し始めた。改めて差し替えられた資料を見ると、3月28日午後10時現在の健康被害状況として死亡者5人、入院者114人と記載されていた。また、同資料にはお客様からのお問い合わせ対応(一次対応)状況として、3月28日時点で電話回線数110回線、応答率約30%であり、4月4日以降は280回線、応答率50~80%の見込みとなっていた。間もなく小林氏、渡邊 純氏(執行役員/信頼性保証本部 本部長)、山下 健司氏(執行役員/製造本部 本部長)、梶田 恵介氏(ヘルスケア事業部食品カテゴリー カテゴリー長)が会場に入り、一斉にひな壇に並んだ。冒頭には小林氏からあいさつがあった。長くなるがあえて全文を再現する。皆さま、本日は先週に引き続きまして、お忙しい中、記者会見にお越しをいただきまして本当に申し訳ございません。現在、当社が製造いたします紅麹を摂取することによる腎疾患等の発生問題によりまして、非常に多くの皆さまにご心痛、ご不安をおかけしており、今回の件が社会問題にまで発展しておりますことを深くお詫び申し上げます。国内外で弊社製品をご使用のお客様、弊社の原料を使用いただき製造販売されていらっしゃいます皆さま、それをお使いになっていらっしゃいます皆さま、弊社が問題を起こしてしまいました紅麹に携わるすべての皆さま、健康食品を含む飲食物を製造販売されていらっしゃる皆さま、そして日々の診療・治療にあたってくださっていらっしゃいます医療機関の皆さま、本件について相談に乗っていただき、ご指導いただいております官公庁・自治体の皆さま、それぞれに対し、言葉に尽くせない大変なご迷惑をおかけしております。まずはお亡くなりになりましたお客さまのご冥福をお祈りし、ご遺族の皆さまに心からお悔やみを申し上げます。また、現在も入院中・治療中の方が数多くいらっしゃることも承知しております。一刻も早いご回復をお祈りしております。この度は国内外の大切なお客様やお取引先さまに多大なるご迷惑をおかけいたしました。加えて、弊社を取り巻くすべての皆さまに多大なる不安・恐れを与えまして、大変な思いをさせてしまったことと、深刻な社会問題にまで、招いてしまったことにつきまして、改めて深くお詫びを申し上げます。また、本件の公表が先週3月22日となってしまったことにつきまして、厳しいご批判、ご指摘をいただいております。これらを真摯に受け止め、深く反省しております。現在、私どもには日々多くの問い合わせやお叱りのお声を頂戴しております。弊社は今後も入院中、治療中の方をはじめ、お客さまや関係するすべての皆さまへ丁寧な対応を続けてまいります。加えて今回の事態の全容の解明、これ以上の被害の拡大防止と原因の究明、お客さまへの丁寧な説明と補償を含めた真摯な対応、品質管理体制はもちろん、危機管理体制の改善、それらに社を挙げて、また外部の専門家の知見にもしっかり耳を傾けながら、全身全霊取り組んで参ります。この度は本当に申し訳ございませんでした。小林氏のこのあいさつ後、4氏は深々と頭を下げた。続いて渡邊氏より配布されていた参考資料の説明があり、今後の原因究明について、政府、厚生労働省や国の研究機関も主導的に関わっていく旨も説明された。ここから質疑に移ったが、司会者から本日はすべての質問に対応すると告げられた。やはり長丁場は必至だ。当初から私は記者の質問はほぼ2点に集約されると予想していた。1つはこの時点でまだ公表されていなかった「意図しない成分」の正体、もう1つはこの間の小林製薬側の対応の“遅れ”についてだ。後者はやや解説が必要だ。まず、小林製薬側の発表に沿って今回の事態のタイムラインをまとめてみる。小林製薬、発表までのタイムラインまず、今回の紅麹サプリを摂取中に腎障害を起こしたとする1例目の報告が医師から小林製薬に届いたのが1月15日。1月31日には摂取者本人、2月1日には1人の医師から同時に3例が同社に報告された。その後、2月6日に渡邊氏が社長の小林氏にこの件を報告。同社に報告した医師からは紅麹から産生される可能性があるマイコトキシンの1種・シトリニンを疑う指摘があったが、同月16日には紅麹原料全ロットの分析結果からシトリニンが検出されなかったことが判明した。その後、同社では届け出た医師との面談や有識者との協議、度重なる経営執行会議の開催などを行いながら、研究部門、安全管理部門で調査を進め、3月16日に一部の紅麹原料と製品から未知の物質の存在を示唆する結果を得て、3月22日に開いた記者会見でこの問題を公表した。原因の可能性が高い物質が特定されたのが3月16日であることを考えれば、3月22日の公表は遅いとは断言しにくいが、一般的な感覚からすると、社長への報告から世間一般への公表まで1ヵ月半を要しているのは、「遅いのではないか?」となってしまうのはやむを得ないと言える。記者からの質問始まるさて、質疑開始と同時に私も含め、かなり多数が挙手したが、トップバッタ―となったのは通路挟んで隣の席に座っていたテレビ朝日・報道ステーションのアナウンサー下村 彩里氏だった。下村氏の最初の質問は、医師の報告から公表までの経過の確認とそれを踏まえたうえで「(報告から公表までの期間は)原因究明のためだったと思われますが、その間にも亡くなった方がいらっしゃいます。このことはどう思われますか?」というもの。確かにこれまでの報告では1月以降に摂取を開始した方でも被害は発生している。「大変に重大なことが起きてしまったと感じております」と回答した渡邊氏に対して、「今おっしゃった、社内での体制というのは十分だったと思いますか」と畳みかける下村氏。渡邊氏は次のように回答した。「実際には原因究明という言葉を使わせていただいておりますが、その理由は状況把握とともに原因物質だけでなく、できるだけ早く体の中で何が起きているのかがわかれば、多くのお医者さまが治療可能になると思います。その点を究明するためにも、原因のほうを追求していたと考えております」この直後、小林氏が引き継いで語り始めた。「もうちょっと早く公表ができれば防げたかということでございましたら、こちらのご批判に対しては私ども言葉もございません」下村氏からは原因物質についての質問が続いた。私自身の関心はこちらのほうだった。これについては梶田氏が「この1週間で(原因物質の)構造まではだいぶ見えてきております。しかしながら、昨日、厚生労働省に報告に行きまして、これから先はわれわれ1社で判断するのではなく、情報提供をしながら国の研究機関とともに解明を進めていく形になりましたので、現時点ではどの構造体かはまだ解明できておりません。この場では控えさせていただこうと思っております」と回答した。その後、私は挙手しながら自分に質問が回ってくるチャンスを待った。後編へ続く

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第91回 紅麹コレステヘルプ関連腎障害の臨床データ

illustACより使用前回に引き続き「紅麹問題」の続編です。発酵食品に使われている麹や、添加物としての紅麹色素について、各企業に問い合わせが殺到しているそうです。この間、某牛丼店に行ったとき、「紅ショウガにも紅麹が入っているらしい」と近くの客が話しているのを耳にしました。たとえば、私の手元にあるものでは、カップラーメンやスナック菓子にも入っていますが、着色料としての使用が腎障害を起こすことは現時点ではないと考えられます。基本的に小林製薬関連以外の紅麹については安全です。前回書いたように、紅麹は「シトリニン」というマイコトキシンを産生する可能性が指摘されていましたが、小林製薬が使用している紅麹は、このトキシンを産生しない株であることが示されています。そのため、「別の成分」が腎障害の原因になったのではないかとされています。被疑成分として厚労省は「プベルル酸」を挙げていますが、腎障害の原因が同成分であることは確定しておらず、あくまで可能性の1つとして提示されたに過ぎません。さて、日本腎臓学会の紅麹コレステヘルプに関連した腎障害のアンケート調査結果(中間報告)が公開されています1)。これによると以下のような特徴があるとされています。(1)患者は30~70代まで認められるが、40~69歳が約9割を占める。(2)服用開始は約4割の人が1年以上前(服用開始時期2023年3月以前)だが、服用期間が短期間の人(開始時期2023年12月、2024年1月、2月)も発症している。(3)Fanconi症候群様の所見(表)。(4)腎生検(34例)では尿細管間質性腎炎、尿細管壊死、急性尿細管障害が主な病変。(5)透析療法を必要としたのは2症例のみで、ステロイド治療を行ったのが4分の1、被疑剤の中止のみが4分の3程度。画像を拡大する表. 紅麹コレステヘルプに関連した腎障害(参考文献1より筆者作成)報道では死亡例がドラスティックに取り上げられていますが、どこまで紅麹に関連しているかはコメントが難しいところかと思います。日本腎臓学会のレポートでは、透析治療を要した2症例のうち、1症例は透析から離脱しており、維持透析に移行した症例については糸球体腎炎の経過に矛盾しないことから、コレステヘルプとの関連性は低いとされています。紅麹がヨーロッパで規制されていることから、「紅麹を使うなんてそもそもおかしい」という論調もありますが、アジア諸国やアメリカでも紅麹はサプリメントとして売られていますので、紅麹そのものが悪というのは少し言い過ぎだと思います。拡大解釈されて、紅麹色素が使用されている他社製品にも風評被害が出ていますが、冒頭で書いた紅ショウガなどで使われているものと今回の紅麹は、まったく製造方法が異なるものです。過熱報道の側面が強いように思いますので、曇りなき眼で見定めたいところです。参考文献・参考サイト1)日本腎臓学会. 「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケート調査(中間報告)

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小林製薬のサプリ問題、日本腎臓学会がアンケート中間報告

 小林製薬が製造販売する『紅麹コレステヘルプ』摂取者の腎障害を含む健康被害の報告が相次いでいる―。これを受け、日本腎臓学会は3月29日より学会員を対象とした「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケートを開始。中間報告として、3月31日19時時点で47例の報告が寄せられ、本アンケートでは死亡例はなかったことを明らかにした。 本学会理事長の南学 正臣氏(東京大学大学院医学系研究科 科長・医学部長)と副理事長の猪阪 善隆氏(大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授)は「健康被害と紅麹コレステヘルプとの因果関係については科学的な検証が必要と考えております。原因物質については、候補物質に関する報道がなされていますが、今後、厚生労働省が国立医薬品食品衛生研究所とともに網羅的探索かつ発生機構の解明を行うことになっています。紅麹コレステヘルプに関連した健康被害として、この中間報告でお示しした以外の病態を否定するものではありませんが、被疑薬を服用された場合、被疑薬の服用を中止するとともに、腎機能検査や尿蛋白に加えて、尿糖や血清カリウム値、尿酸値、リン値、HCO3-値の測定は重要と思われます。今回の報告は中間報告であり、暫定的なものであることをご理解の上、診療にお役立てください」としている。 報告された患者背景や臨床所見については、日本腎臓学会のホームページ内の『「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケート調査(中間報告)』に詳細が示されている。 なお、本アンケートは問題となっているサプリメント摂取者の臨床的特徴の概要を調査し、一般診療に役立てることを目的に実施されており、日本腎臓学会の会員医師を対象に4月30日まで回答を受け付けている。

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第188回 専門医の資格広告は厳格な基準で、学会認定の専門医は広告不可に/厚労省

<先週の動き>1.専門医の資格広告は厳格な基準で、学会認定の専門医は広告不可に/厚労省2.駆け込み「宿日直許可」で、分娩医療は守れるか/産婦人科医会3.教育水準が命を左右する? 学歴の差で死亡率が上昇/国立がんセンター4.広がる紅麹サプリメントによる健康被害、問われる安全性/小林製薬5.勤務実態なしの事務職に2,000万円、特別背任容疑で捜索/東京女子医大6.過重労働で医師がくも膜下出血に、労災認定を求めて国を提訴/東京1.専門医の資格広告は厳格な基準で、学会認定の専門医は広告不可に/厚労省厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を3月25日に開催し、専門医の資格広告に関する新たな方針を定めた。これにより、2029年度末からは、日本専門医機構が認定する19の基本領域の専門医資格に限り広告が可能となり、現在59の学会が認定する56の専門医資格のうち、基本領域と重なる16の学会認定専門医の広告ができなくなる。ただし、2028年度末までにこれらの資格を取得または更新した医師は、認定・更新から5年間広告が認められる。また、基本領域の研修中に始めることができる15領域のサブスペシャリティー(サブスペ)の専門医資格については、研修制度の整備基準や認定・更新基準、専門医の名称が整ったものから個別に広告が認められることになる。これに対して、連動研修を行わないサブスペの12領域については、新たな判断基準を設定し、それをクリアすることを条件に広告を認める。厚労省は、広告に関する判断基準として「わかりやすさ」「質の担保」「社会的・学術的意義」の3点を挙げ、専門医の名称と提供する医療の内容が広く普及していること、ほかの専門医との区別が明確であることなどを条件に設定した。また、専門医資格の広告が大病院志向を促すことなく、国民へのわかりやすさを重視する方針を示している。この方針は、国民へのわかりやすい情報提供と医療の質の担保を目的とし、医療現場における専門医資格の乱立と混乱を防ぎつつ、患者・国民の健康と生命を守ることを意図している。この方針変更は、医療機能情報提供制度の全国統一システムの運用開始や医療広告規制におけるウェブサイトなどの事例解説書のバージョンアップと同時に議論され、医療機関選択における国民の誤解を防ぎつつ、適切な情報が提供されることが期待されている。参考1)専門医に関する広告について(厚労省)2)学会認定16の専門医、29年度から広告不可に 専門医機構の基本領域に一本化(CB news)3)日本外科学会認定の「外科専門医」などの広告は2028年度で終了、「機構専門医」への移行を急げ-医療機能情報提供制度等分科会[1](Gem Med)2.駆け込み「宿日直許可」で、分娩医療は守れるか/産婦人科医会日本産婦人科医会が行った調査によると、分娩を扱う全国の病院947施設のうち、半数を超える479施設が夜間宿直や休日の日直を休息とみなし、労働時間として計上しない「宿日直許可」を労働基準監督署から取得している、または申請中であることが明らかになった。この宿日直許可により、実際には医師が夜間や休日に頻繁に診察や緊急手術を行い、妊婦の経過観察に当たるなど、休息とは言えない激務にも関わらず、残業時間としての計上が避けられている。医師の「当直」勤務は月平均7.9回、1回当たり16時間として、年間約1,500時間の労働になるが、これを労働時間とみなさなければ、残業時間は年平均230時間となり、規制上限の960時間を下回る。こうした宿日直許可の乱用は、4月から始まる残業規制と医師の働き方改革の実効性に疑問を投げかけている。とくに病院側は、残業規制による業務への支障を避けるため、また医師の派遣元の大学病院などから敬遠される恐れがあるために、このような「苦肉の策」を取ったとみられる。しかし、実際の医師の労働環境は、十分な睡眠を取ることができず、夜間も救急車の受け入れや外来患者の対応に追われるなど、非常に過酷な現状が続いている。この宿日直許可の乱用は、医師の過労自殺や医療安全の脅威を招く可能性があり、医療界における長時間労働の問題と医師を労働者として適切に扱う必要性を改めて浮き彫りにしている。医療需要の高まりと医師数不足が続く中、医師の働き方改革が名ばかりに終わらず、実効性を伴う改革が求められている。参考1)持続可能な周産期医療体制の実現に向けて~産婦人科医療資源と医師の働き方改革の影響について~(日本産婦人科医会)2)分娩病院の半数、夜間宿直・休日日直を「休息」扱い 労働時間とせず 産婦人科医団体調査(産経新聞)3)医師の働き方改革は名ばかりか…労基署の「宿日直許可」が残業規制の抜け道に(中日新聞)3.教育水準が命を左右する? 学歴差で死亡率が上昇/国立がんセンター国立がん研究センターによる最新の研究が、教育水準とがんの死亡率の間に顕著な関連性を明らかにした。この研究は、日本国内で初めて学歴別の全死因による死亡率を推計し、その結果を公表したもの。約800万人の人口データと33万人の死亡データを基に、教育水準が低い人々(とくに中学卒業で終えた者)は、より高い教育を受けた人々と比較し死亡率が約1.4倍高いことが判明した。この格差は、脳血管疾患、肺がん、虚血性心疾患、胃がんといった特定の死因でとくに顕著だった。一方で、乳がんに関しては、より高い教育水準を持つ女性で死亡率が高く、これは出産歴の少なさと関連していると考えられている。研究チームは、教育歴と死亡率の関係が直接的なものではなく、喫煙やがん検診の受診率の低さなど、生活習慣や環境要因によるものであると指摘している。また、わが国での教育水準による健康格差は、欧米諸国と比較して小さいものの、社会全体としてはがん検診の受診率を向上させるなど、健康格差を縮小するための対策が必要であると述べている。参考1)Educational inequalities in all-cause and cause-specific mortality in Japan: national census-linked mortality data for 2010-15(International Journal of Epidemiology)2)平均寿命前後までの死亡率、学歴で差 国立がんセンター(日経新聞)3)学歴別死亡率、中卒は大卒以上の1.4倍 「喫煙など影響」- がんセンター初推計(時事通信)4)「死亡率、中卒は1.4倍」 大卒以上と比較 国立がん研究センター(毎日新聞)5)教育期間の短い人は死亡率高い傾向 喫煙率など影響か 研究班が推計(朝日新聞)4.広がる紅麹サプリメントによる健康被害、問われる安全性/小林製薬小林製薬(大阪市)の機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」の摂取後に健康被害が発生している問題で、腎機能障害や急性腎障害の発症が確認されている。摂取者の114人が入院したほか、5例の死亡症例も報告され、厚生労働省と大阪府は原因究明を同社に求めている。このサプリメントの原料に含まれる紅麹には、青カビが生み出すプベルル酸が含まれていたとの指摘がされており、この成分が健康被害の原因である可能性が高いとされ、具体的な影響や摂取によるリスクについての検証が急がれている。摂取した患者の中には、症状の改善後にサプリメントの再摂取によって再び健康被害を受けた事例も報告されている。この問題は、同社以外に原料として紅麹を購入し使用していた他の企業や製品にも影響を及ぼしており、同社は製造プロセスの見直しや、健康被害を受けた消費者への対応に追われている。さらに、この問題は、機能性表示食品の制度見直しを求める声を高めており、政府はこの問題を受けてコールセンターや省庁間連携室の設置を予定している。参考1)小林製薬社製の紅麹を含む食品に係る確認結果について(厚労省)2)小林製薬「紅麹コレステヘルプ」における腎障害に関しまして(日本腎臓学会)3)小林製薬 紅麹問題「プベルル酸」健康被害の製品ロットで確認(NHK)4)腎機能に異常の患者3人「共通点は紅麹」 医師は小林製薬に報告した(朝日新聞)5)小林製薬「紅麹」サプリ、摂取の再開後に再入院…治療の医師「サプリ含有物質が原因の可能性高い」(読売新聞)6)倦怠感、尿の異常…紅麹サプリを摂取 男性が訴える体の異変(毎日新聞)5.勤務実態なしの事務職に2,000万円、特別背任容疑で捜索/東京女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)およびその同窓会組織「至誠会」に関連する一連の不正給与支給疑惑について、警視庁が特別背任の容疑で捜索を行った事件。この事件では、勤務実態のない元職員に約2,000万円の給与が不正に支払われた疑いが浮上している。報道によると、この元職員は2020年5月~2022年3月まで別のコンサルティング会社からも給与を受け取っていたと報じられている。至誠会は、岩本 絹子理事長が代表理事を務めていた時期に、この不正が行われたとみられ、元事務長との共謀が疑われている。この問題は、東京女子医科大学および至誠会による不透明な資金支出をめぐり、一部の卒業生らが岩本理事長を背任容疑で警視庁に刑事告発し、2023年3月に受理されていた。東京女子医科大学は、1900年に東京女醫學校を母体として設立され、長年にわたり女性医学教育の先駆者として知られてきた。しかし、近年では大学病院での医療事故や経営悪化が報じられるなど、栄光に影を落とす出来事が続いていた。この事件に関する捜査は、岩本理事長および元職員らによる資金の不正流用や背任の可能性に焦点を当てているとともに、大学の経営統括部の業務が外部のコンサルティング会社に委託された背景や、その過程での資金の流れも問題の核心に迫る重要なポイントとなっている。参考1)本学関係者の皆様へ(東京女子医科大学)2)同窓会から不正給与2,000万円支出か、東京女子医大(日経新聞)3)東京女子医大 勤務実態ない職員 給与約2,000万円不正支給か(NHK)4)東京女子医科大と岩本絹子理事長宅など一斉捜索、理事長側近に不正給与2,000万円支払いか(読売新聞)5)名門に捜査のメス 医療事故続き再建担った理事長 東京女子医大捜索(朝日新聞)6.過重労働で医師がくも膜下出血に、労災認定を求めて国を提訴/東京2018年11月、過重労働の末にくも膜下出血を発症し、寝たきり状態となった50代の男性医師が、労災認定を求めて国を提訴することが判明した。男性医師は、都内の大学病院で緩和医療科に勤務しており、発症前6ヵ月間の時間外労働は、月に4日程度の宿直を含むと毎月126~188時間に上っていた。これは、過労死ラインとされる月80時間を大幅に超えるものであった。しかし、三田労働基準監督署および厚生労働省の労働保険審査会は、宿直を労働時間としてほぼ認めず、労災申請を棄却した。審査では、宿直中の患者対応やカルテ作成など、わずかな時間のみが労働時間として認められ、その結果、発症前3ヵ月の時間外労働は月50時間前後と評価された。男性医師側はこの決定に対し、宿直中も高いストレス下での業務に従事していたと主張し、労働時間の過小認定の問題点と時間外労働の上限規制の形骸化に警鐘を鳴らすため訴訟を提起する構えをみせている。参考1)くも膜下出血で寝たきりの医師 労災認定を求め国を提訴へ(毎日新聞)2)医師の宿直を労働時間から除外、労災認められず 「ここまでやるか」(同)3)医者の宿直、労働時間「ゼロ」扱いで労災認定されず 月100h超の残業でくも膜下出血発症…妻「理解に苦しむ」(弁護士ドットコム)

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マイクロプラスチック・ナノプラスチックに関する記念碑的研究(解説:野間重孝氏)

 環境問題がさまざまな方向から論じられるようになって久しい。しかし、いわゆる公害問題のように、原因・原因物質と結果として出現する疾病との関係が明らかであるような場合を除けば、環境内に伏在する危険因子・物質と疾病との相関が、疫学的に明快に究明された例はなかったといってよい。 この研究は、マイクロプラスチック・ナノプラスチック(MNP)と心血管イベントの関係を疫学的な見地から明らかにした世界初の研究であるばかりでなく、環境問題の研究としても、まさしく記念碑的な研究であると位置付けられるものではないかと思う。ディスカッションの中で研究グループは、「われわれの結果は因果関係を証明するものではないことに注意することが重要である」と語っているが、これはMNPが心血管イベントを引き起こすメカニズムが明らかになっていないということを言っているのであって、彼らの疫学的手法は完璧なものであったと言ってよいと思う。今、バトンは疾病研究者たちにタッチされたのであって、これから細胞内組織研究部門から、このメカニズムについての究明的な研究が発表されるのが待たれるところである。 以上、この論文の評としては十分なのではないかと思うが、この論文評は広くいろいろな方々に読んでいただくことを目的としているので、背景となる知識を評者なりに整理しておきたい。上記の評で十分に興味が持てたという方は、まず原文を読んでいただきたい。大変によくまとまっており、読みやすい論文である。 まず当たり前のことだが、プラスチックとは何なのか。JISでは「必須の構成成分として高重合体を含みかつ完成製品への加工のある段階で流れによって形を与え得る材料」となっているが、普通はこれでは何だかわからないので業界の定義を使おう。「主に石油に由来する高分子物質(主に合成樹脂)を主原料とした可塑性の物質」となる。 マイクロプラスチックとは100μm~5mmの大きさのプラスチックの破片をいう。これは一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分類される。一次マイクロプラスチックとは主に洗顔料や歯磨き粉などの製品に配合された微小なプラスチックをいい、海洋中の化学物質を吸収し、プランクトンや魚に摂取されやすいという。二次マイクロプラスチックとは元々大きく作られたプラスチック製品が自然破壊で破壊・分解されて小さくなったもので、最終的には目に見えないマイクロサイズになったものを指す。この破壊過程には紫外線が関係していると考えられている。ナノプラスチックとは一般に1nm~1μmの範囲のものを指す。いずれもが海洋汚染の原因として近年問題にされている。より小さいものほど生物体内に取り込まれやすく、その影響も大きいのではないかと考えられている。 国連環境計画(UNEP)、国連の持続可能な開発目標(SDGs)、食糧農業機関(FAO)などが、さまざまな発信を行っていることはご存じの方も多いと思う。ただ知っておかなければならないのは、プラスチックの製造は少なくとも2050年ごろまでは持続するであろうということと、われわれ人類はMNPを処理する完全な方法をいまだ確立していないこと、また一部のプラスチックはリサイクルが不可能であるといったことだろう。 MNPが問題にされるようになったのは、比較的最近のことだといえる。魚や貝などの海洋生物からMNPが検出されたのは2000年代初めの出来事だ。2019年になってマイクロプラスチックが魚の消化管や魚介類の体組織中から見つかり、環境問題として注目されるようになった。ナノプラスチックが問題になるのは、この時期からだと考えればよいので、こちらはまだ10数年の歴史しかないといえる。その後研究は急速に進み、人間でも腸管・肝臓・血液・脳など、さまざまな組織中からMNPが検出された。 本論文中で、何故この研究グループが肝臓や血球ではなく心血管イベントを題材として取り上げたかは書かれていない。しかし、無症候性頸動脈疾患患者から採取したプラーク標本のなんと58.4%からMNPが検出されたとなれば、やはりこの予後を解析することにより、その影響を検討してみようというのは自然な発想だったのではないかと思う。そしてエンドポイントが複合エンドポイントであったとはいえ、ハザード比が4.53だったというのは研究者である本人たちが一番驚いたのではないだろうか。 この研究はそもそも、プラーク中からどのくらいのMNPが検出されるのだろうという素朴な疑問に始まり、その驚きからその経過を疫学的に追ってみようという行動が生まれ、結果として驚くような結論に至ったという、研究としてはきわめてオーソドックスな過程を踏んでいる。こういったごく素直な疑問から発した研究が、大きな発見につながるという典型例ではないかと思う。しかし読者の皆さん、皆さんがこの文章を読みながら何気なく口にしているミネラルウォーター、実はMNPがたっぷり含まれているのかもしれないんですよ。知らないって恐いですよね。

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第90回 小林製薬の「紅麹」製品自主回収、シトリニンが原因?

ベニコウジカビ(Wikipediaより)2024年3月22日、小林製薬は「紅麹原料(自社製造)の成分分析を行った結果、一部の紅麹原料に当社の意図しない成分が含まれている可能性が判明した」と発表しました1)。2024年3月27日時点の報道によると、小林製薬の紅麹製品を摂取し、腎疾患等を発症した患者の死亡が2件、入院症例は106件となっています。紅麹は、マイコトキシンの1種であるシトリニンによる健康障害が知られており、10年前にはすでにヨーロッパで規制されています2~4)。スイスでは2014年に、紅麹を成分に含む食品の売買は違法であると注意喚起されています。紅麹は現在も着色料や発酵食品などに使用されており、血清コレステロール値や血圧を下げる機能が知られています。しかし、紅麹が発酵した場合、マイコトキシンであるシトリニンが生成され、加熱しても腎障害につながる毒性が消えないため、これをいかに制御するかが課題でした。小林製薬も過去ヨーロッパで取り沙汰された紅麹の腎障害については、当然認識していました。次世代シークエンサーを使って紅麹菌3種類の全ゲノム解析を行った結果、日本で主に使われているMonascus pilosusにシトリニンが生成できないという論文が公開され5)、今回自主回収に踏み切った製品にも当然シトリニン非産生株が用いられています。――とはいえ、紅麹が腎疾患を起こしているという疑いが出て自主回収に踏み切っているわけですから、これらの製品がシトリニンを産生しているかどうか、その他健康被害を起こす物質が検出されるかどうかが注目されています。小林製薬は、過去1年間に製造した紅麹原料合計18.5トンのうち、すでに16.1トンは子会社から取引先へ販売済みであるとしています。小林製薬は、すべての紅麹原料を使用した製品の販売を停止するよう求め、回収措置を進めています。3月25日、小林製薬の株価は値幅いっぱいまで急落しました。海外で以前に問題となった紅麹関連の腎障害がここに再び現れた場合、消費者およびステークホルダーへの詳細な説明が不可欠となるでしょう。参考文献・参考サイト1)小林製薬:紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ2)内閣府食品安全委員会:スイス連邦食品安全獣医局(BLV)、紅麹を成分に含む食品の売買は違法と注意喚起3)内閣府食品安全委員会:フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、紅麹を有効成分とするサプリメントを服用する前に必ず医師に相談するよう注意喚起4)内閣府食品安全委員会:欧州連合(EU)、紅麹由来のサプリメント中のかび毒シトリニンの基準値を設定5)Higa Y, et al. BMC Genomics. 2020 Oct 1;21(1):679.

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ナイアシンの取り過ぎは心臓に悪影響

 ナイアシンは必須ビタミンB群の一つだが、取り過ぎは心臓に良くないようだ。何百万人もの米国人が口にする多くの食品に含まれるナイアシンの過剰摂取が炎症を引き起こし、血管にダメージを与える可能性のあることが、米クリーブランド・クリニック、ラーナー研究所の心血管・代謝科学主任研究員であるStanley Hazen氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Nature Medicine」2月19日号に掲載された。 Hazen氏は、「ナイアシンの過剰摂取により心血管疾患の発症リスクが高まる可能性が示された以上、平均的な人はナイアシンのサプリメントの摂取を控えるべきだ」とNBCニュースに対して語った。 米メイヨークリニックによれば、ナイアシンの推奨摂取量は男性で1日16mg、妊娠していない女性では1日14mgである。米国では、穀物やシリアルにナイアシンが強化され始めた1940年代以来、その摂取量が増加している。Hazen氏によると、食品にナイアシンを強化する動きは、ナイアシンが不足するとペラグラと呼ばれる致命的な疾患を引き起こす可能性があることを示唆した研究を受けて助長されたと説明する。皮肉なことに、ナイアシンのサプリメントは、かつてはコレステロール値を改善するために医師によって処方されていた。 本研究には関与していない、米ヴァンダービルト大学医療センター循環器内科のAmanda Doran氏は、ナイアシンが心血管疾患リスクを高める可能性があることを知って驚いたと話す。同氏はNBCニュースに対し、「ナイアシンに炎症促進作用があると予想していた人はいないのではないかと思う」と語り、「この研究結果は、臨床データ、遺伝子データ、マウス実験を組み合わせて多角的に検討して導き出されたものであり、説得力がある」と述べている。 Hazen氏らはまず、心血管疾患の評価のために心臓病センターを訪れた患者1,162人(女性422人)の空腹時血漿のメタボロミクス解析を行った。その結果、ナイアシンの代謝産物である2PY(N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド)と4PY(N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド)の血中濃度が主要心血管イベント(MACE)の発生と関連していることが明らかになった。この結果は、米国人2,331人とヨーロッパ人832人から成る2つの検証コホートでも確認された。また、遺伝子変異体rs10496731は2PYおよび4PYレベルと有意に関連しており、さらに、この変異と血漿中の血管細胞接着分子(VCAM-1)である可溶性VCAM-1(sVCAM-1)レベルが関連することも示された。 マウスを用いた実験からは、生理学的レベルの4PYの投与によりVCAM-1の発現が促進されるとともに、血管内皮における白血球の付着が増加し、炎症が亢進していることが示唆された。このような変化は、2PYの投与では確認されなかった。 米マウントサイナイ・ヘルスシステム代謝・脂質部門でディレクターを務めるRobert Rosenson氏は、この結果は「魅力的」で「重要だ」とし、「食品業界がパンのような製品にナイアシンを大量に添加するのをやめることを期待している。これは、体に良いとされるものの取り過ぎが、かえって悪影響を及ぼすことの一例だ」とNBCニュースに語った。 Rosenson氏は、「この結果は、ナイアシンの食事からの摂取推奨量にも影響を与える可能性がある」との見方を示す。一方、前述のDoran氏は、「この結果は、血管の炎症を抑える新たな方法の開発につながる可能性もある」との見方を示し、「大きな可能性を秘めた、ワクワクするような結果だ」と話している。

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高アルカリ水での尿路結石再発予防は困難

 「アルカリ水」として販売されている飲料を、尿路結石の予防目的で飲んだとしても、効果を得られる可能性は低いのではないかとする論文が発表された。それらの飲料に含まれているアルカリ成分は少なすぎて、尿のpHレベルに影響を与えるほどではないという。米カリフォルニア大学アーバイン校のRoshan Patel氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Urology」に2月1日掲載された。研究グループによると、アルカリ水よりもむしろオレンジジュースの方が良い選択肢である可能性があるとのことだ。 Patel氏らは論文中に研究の背景として、「高pH水」とも呼ばれるアルカリ水への人気の高まりを指摘している。水道水のpHは7.5程度だが、アルカリ水はそれより高い。尿路結石は再発しやすい疾患であり、再発予防には尿のpHを上げることが重要で、その方法として薬物治療としてはクエン酸カリウムが処方される。しかしクエン酸カリウムの錠剤はサイズが大きく、毎日複数回飲む必要があるため、服用したがらない患者も少なくない。このような人たちの間で、アルカリ水への尿路結石再発予防効果への期待が広がっているのだという。 そこでPatel氏らは、米国で市販されている5種類のアルカリ水のpHを測定した。また、尿のpHを上昇させる可能性のある、ほかの飲料や食品についても、公表されているデータの検討を行った。 検討の結果、5種類のアルカリ水のpHは、9.69~10.15の範囲であり、アルカリ含有量は1L当たり、わずか0.1mEqだった。研究者によると、この量は体内で代謝産物として生成される酸が1日に約40~100mEqであることに比べると、「取るに足りない」レベルだという。また、ある製品には、少量のクエン酸塩が含まれていたが、製品ラベルにはそのことが記載されていなかった。Patel氏は、「アルカリ水のpHは水道水よりも高いが、アルカリ含有量は無視できる程度のものだ。このことは、腎臓やその他の部位にできる尿路結石の発生に影響を与えるほど、尿のpHを上げることができないことを示唆している」と、大学発のリリースの中で述べている。 対照的に、尿のpHを上昇させる可能性のある市販製品が見つかった。例えば、オレンジジュースの中にはアルカリ含有量が1L当たり最大15mEqに達する製品があり、費用対効果の高い予防手段となる可能性が認められた。もう一つの低コストで効果的な選択肢は、料理に「膨らし粉」として用いられる重曹(重炭酸ナトリウム)が挙げられる。ただし、重曹についてはナトリウムが含まれているため、研究者らは「健康上の懸念がある」と指摘している。 これらの結果を基にPatel氏は、「われわれの報告は、アルカリ水ではない一部の市販飲料や食品が尿路結石の再発予防に役立つ可能性を示している」と述べている。ただし、「得られたデータは研究室内での解析結果であり、実際に尿のpHを上昇させるための最良の方法は、臨床試験により確認する必要がある」とのことだ。

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第201回 避難所のトイレ問題、医療者からの提言求む!

先日、ついに能登半島最深部の珠洲市に入った。ペーパードライバーの私は公共交通機関を使うしかなく、北陸鉄道が運行する特急バスで珠洲市を目指した。このバスは3月15日までは北陸鉄道の計らいにより無料。座席以上の乗車希望者がいた場合は現地の被災者と親族が優先乗車する。私が金沢駅で乗り込んだ時は、幸い乗車希望者が座席数を下回っており、難なく乗車することができた。通常、金沢駅から珠洲市役所までは2時間半程度で到着するが、道路事情や途中の停車バス停の関係などで約4時間かかった。現地は被災から2ヵ月を経過した今も大部分の地域で断水が続いている。私はとある場所に間借りで寝起きをさせてもらったが、2泊3日の滞在中の寝床は床にアルミホイル製ブランケット2枚を敷き布団と掛け布団代わりにして過ごした。その割に6時間はきっちり眠ったが…。食事は持ち込んだインスタント麺とパック入りご飯、補助食品のカロリーメイトが中心。上下水道が使えない断水状態のため、排水をすることができずにインスタント麺の汁はすべて飲み干しである。以前書いたことがあるかもしれないが、私はインスタント食品の中ではカップ焼きそばが大好きな人間だが、湯切り前提のカップ焼きそばを断水地域で食べるなどもってのほかである。これらの食品は飲料のお茶などとともに大部分は東京から最も大きなレジ袋に入れて持ち込んだ。金沢での現地調達も可能だが、東京のほうが安価なディスカウントストアを知っているという貧乏根性が働いてしまったのだ。ちなみにインスタント麺の汁飲み干しも前提に摂取水分量は1日2Lと計算して飲料も持ち込んだ。ほぼ完璧に計算したつもりだったが、その想定はやや狂った。何かというと、歯磨きの口すすぎの水が計算から漏れていたのである。おかげで最初の晩は、歯磨き後の口すすぎをペットボトルの緑茶でやる羽目になった(2日目は取材していた支援チームが大量に保有していた500mLのペットボトル入りミネラルウォーターを分けてもらったが)。さて、上下水道が機能していないのに歯磨きの口すすぎの水はどこに掃きだしていたのかとなるが、それはやむなく洗面所で吐き出すしかなかった。私が滞在していた場所には各種支援チームも滞在していたが、周囲もそうだった。これ以外に滞在先でやむなく排水となっていたものがある。まず、男子トイレの小便用器である。小便用器に用を足した後は、目の前に置かれた2Lサイズのペットボトルに入った水を便器にかけて流す決まりになっていた。また、その後の手洗いもトイレの洗面台に設置された、折り畳み式ポリ容器のコックをひねり、中から出てくる水で洗うため、洗面台の排水管に流すしかなかったのである。ちなみに、トイレについては滞在先の敷地内に3台のトイレ専用車も設置されていたが、滞在者数に対して数が少なく、周囲の住民も利用するため、常に利用できるわけではなかった。そして男性の大便用のほうは、建物のトイレ内に設置された簡易トイレに専用のビニール袋を1回ごとにセットし、用を足し終わると凝固剤を加えて密封したうえでトイレ内の大型ポリ容器に捨てる。女性の場合は大小便ともに男性の大便用と同じような使用・処理方法となる。大型ポリ容器内には予め大きな黒いポリ袋が設置されているため、用を足した後に各人が捨てた排泄物は、2時間おきに建物内のトイレ清掃担当班が口を縛って、屋外の廃棄物置き場に運搬していた。ある時、この作業の様子を撮影していると、「ちょっと持ってみます?」と担当班の人から廃棄物置き場運搬前の黒いポリ袋を渡されたが、軽量のダンベルよりは明らかに重かった。「思ったより重いですね」とダンベルを持ち上げる動作のように上げ下ろししてみたが、中は排泄物だと思い直してすぐに相手に戻した。念のために付け加えておくと、当然ながら現地では基本的に入浴はできない。なぜこんなことを書いたかというと、実は思っているほど現地の断水に伴う状況が伝わっていないこと、さらに公衆衛生の観点からもこの点は伝えておかねばと思ったからである。医学的にも重要な避難所のトイレ問題実は東日本大震災の時も感じたことだが、断水が続く地域でのトイレ問題は深刻である。そもそもトイレが仮設、かつこれに加えてぱっと見で汚いと感じると、排泄を控えようとする人は少なくない。そうなると飲食を控えることに行き着きがちだ。これ自体が健康問題に直結することを考えれば、たかがトイレとは言えないはず。とくに排泄の場合、必然的に小便の頻度が多くなるので、このような状況では水分摂取を控えがちになる。これは心血管系疾患を基礎疾患として有することが多い高齢者では時に致命的になる。しかし、いくら医療従事者が「水分摂取を過度に控えないように」と忠告しても、トイレがこの状況では「糠に釘」状態になってしまう。そして東日本大震災での取材経験も踏まえると、同じ断水地域でも市町村、あるいは避難所単位での「トイレガチャ」がある。端的に言うと、こうした仮設トイレは提供する企業、支援自治体によってかなりスペックに差がある。たとえば、珠洲市に先立って私が訪問していた輪島市門前町のある避難所では、屋外に工事現場にあるような仮設トイレが設置されていた。このトイレを実際に使ってみたが、内部は洋式で恐ろしく狭い。トイレの扉には男性の小便も便座に座ってするように注意書きが貼ってあったが、内部に正面から入って扉を閉めた後に便座に座ろうとすると、方向転換に苦労するほどの狭さなのだ。しかも屋外なので、トイレの床は利用者の靴底に付着した泥などで汚れている。ここでは予め小便の場合は何も流さず、大便の場合は用を足し終わった後、屋外に設置されたビニールプールから桶で水を掬って、再びトイレに戻って流すように指示されていた。小と大で対応をわけているのは、仮設トイレの排泄物タンクの容量をひっ迫させないためだろう。実際、私は小便で使ったが流さなくて済む反面、便器底部のタンクにつながる蓋が小便の重みで何度もバタンバタンと音を立てるのは正直気分が良いものではなかった。さらに言えば、この蓋の動作で体感はしていなくとも小便を含む飛沫が、自分の内股などに付いている可能性はある。さらに大便に関して言えば、現地で活動していた女性薬剤師が後日、「水を汲みに行って流しに戻るということは、大便をしたということが周囲にわかってしまいますよね。あれで私はなかなか用が足せず、数日間は便秘気味になりました」と語ったことでハッとした。この「トイレガチャ」は被災者の健康問題まで発展した場合、そのツケを払わされる当事者には間違いなく医療従事者も含まれる。その意味では各自治体の災害対応・訓練などに関わっている医療従事者の皆さんには、平時から災害時のトイレ問題を今まで以上に心を配って検討しておいてほしいと思っている次第だ。

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“抗加齢医学”の実学創造~北里 柴三郎博士の思いを継いで~

第24回日本抗加齢医学会総会が2024年5月31日(金)~6月2日(日)の3日間、熊本城ホールにて開催される。今回のテーマは『実学創造~老化制御の一新紀元』。大会長である尾池 雄一氏(熊本大学大学院生命科学研究部分子遺伝学講座 教授/熊本大学医学部長)に本総会に込める思いや注目演題について話を聞いた。予防医学の父、北里 柴三郎氏の精神を引き継ぐ2024年は新日本銀行券が発行されますが、新たな千円札紙幣の顔となる北里 柴三郎博士の生誕の地がこの熊本です。私自身も博士のモットーである『“実学の精神”をもって社会に貢献』にならい、これまで当たり前のように受け入れてきた年齢を重ねることで発症リスクが高まる脳・心血管疾患、悪性腫瘍など加齢関連疾患の発症を”抗加齢医学”の実践により予防するための研究を進めてきました。その思いを詰め込み、本学会総会初となる地方都市開催の実現とともに、北里 柴三郎博士の玄孫にあたる北里 英郎氏による講演「近代医学の父、予防医学の礎を築いた北里 柴三郎博士の功績」ほか、北里 柴三郎博士の意思、精神を引き継ぎ、抗加齢医学の実学創造に挑む関連演題をお届けします。また、会長企画シンポジウムでは、1)コホート研究から健康長寿の鍵を紐解く、2)ミトコンドリア研究から老化制御の実学創造/ミトコンドリア先制医療、3)Inflammagingから老化に迫る、4)老化を予測・制御する最先端研究といったテーマで各々の領域でご活躍されているの方々にご講演いただく予定です。また、『生物はなぜ死ぬのか』の著者で知られる小林 武彦氏(東京大学定量生命科学研究所附属生命動態研究センター 教授)、新たな年齢指標「epigenetic clock(生物学的年齢)」を開発したSteve Horvath氏(米国・カルフォルニア大学)、世界的なエイジング医学ジャーナルnpj Aging編集長のMarco Demaria氏(オランダ・フローニンゲン大学医療センター)を海外からお招きし、抗加齢医学におけるグローバルな話題も提供いたします。予防医学に光明、ミトコンドリア研究が熱い! 私は病的な老化を制御・予防する観点から主に2つの柱で研究を進めております。一つがミトコンドリア機能制御の解明と抗加齢医学への応用です。ヒトの細胞は一人あたりに約200種類、数十兆個が存在していますが、各々の細胞が正常に機能するにはエネルギーが不可欠です。ここで重要なのがミトコンドリアであり、ほぼすべての細胞においてエネルギーを生成する発電所的な役割を果たしているわけです。しかし、このミトコンドリアの機能が異常を示せば細胞レベルで異常がみられるようになり、また、機能異常が進むと、酸化ストレスとも呼ばれる活性酸素(ROS)が細胞内で産生されて体内の老化が一気に加速してしまいます。つまり、ミトコンドリアの機能をいかに正常に保つかが非常に重要課題であることから、さまざまな研究が進められており、近年ミトコンドリアだけにフォーカスした国際シンポジウムが頻繁に開催されたり、CellやNatureといった世界のトップ科学雑誌に新たな研究成果が立て続けに掲載されたりするなど、とても競争が激しくホットな領域なのです。たとえば、“細胞内小器官“であるミトコンドリアが、隣接する細胞間や遠隔の細胞間でやりとりされ、お互いの細胞機能に関わり老化に影響を与えることや、ミトコンドリアの機能に重要なミトコンドリアを構成するタンパク質の合成が活性化されていることが長寿に重要であることなど解明されており、ミトコンドリアを標的とした薬剤やサプリメントの開発など、抗加齢医学への応用が着実に進められています。そこで、皆さまにミトコンドリア研究の今を知ってもらうために、会長企画シンポジウムとしてご用意いたしました。老化に抗う時代の到来か!?もう一つの研究の柱が炎症老化(Inflrammaging)です。これは炎症を意味するinflammationと老化を意味するagingを組み合わせた造語で、老化に伴う慢性炎症のことです。炎症自体は感染や組織損傷への防御反応で、その多くは改善すれば自然と収まるものなので、悪いものではありません。しかしこれまでも、何らかの原因で炎症が遷延し慢性炎症を惹起し、がん化などに繋がることは注目されていました。しかし近年、老化した個体の中で変化し生じるさまざまな機構により慢性炎症が生じ、細胞/臓器/身体の機能低下をもたらし、老化表現型の出現および加齢関連疾患の発症・進展に寄与していることが明らかとなってきました。上述のミトコンドリアの変化も老化に伴う慢性炎症の原因の一つです。現在の老化予防としては老化細胞を除去(セノリシス)する方法や、それとは別に老化細胞のinflammagingなど老化を促進する特徴的な機能を阻害するセノモルフィックな戦略が注目され、既に米国を中心にヒトでの臨床研究が進んでおります。われわれもまた抗老化医学の実学創造の柱としてinflammagingの解明とその制御に挑んでおり、会長企画シンポジウムでもこの話題を盛り込みました。このほか、さまざまな視点から抗加齢に着目した教育講演やシンポジウム、日本血管生物医学会、日本肝臓学会、健康食品産業協議会などとの共催シンポジウム、2025年に向けた大阪万博や世界長寿サミットに関するセッションなどを取り揃え、どんな専門分野の医師、医療関係者も楽しめる総会となっています。ぜひ現地にて皆さまのご参加をお待ちしております。

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普段から活発な高齢者、新型コロナ発症や入院リスク低い

 健康のための身体活動(PA)は、心血管疾患(CVD)、がん、2型糖尿病やその他の慢性疾患の予防や軽減に有効とされているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症や入院のリスク低下と関連することが、米国・ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のDennis Munoz-Vergara氏らの研究により明らかになった。JAMA Network Open誌2024年2月13日に掲載の報告。 本研究では、COVID-19パンデミック以前から実施されている米国成人を対象とした次の3件のRCTのコホートが利用された。(1)CVDとがんの予防におけるココアサプリメントとマルチビタミンに関するRCT、65歳以上の女性と60歳以上の男性2万1,442人、(2)CVDとがんの予防におけるビタミンDとオメガ3脂肪酸に関するRCT、55歳以上の女性と50歳以上の男性2万5,871人、(3)女性への低用量アスピリンとビタミンEに関するRCT、45歳以上の女性3万9,876人。 本研究の主要アウトカムは、COVID-19の発症および入院とした。2020年5月~2022年5月の期間において、参加者はCOVID-19検査結果が1回以上陽性か、COVID-19と診断されたか、COVID-19で入院したかを回答した。PAは、パンデミック以前の週当たり代謝当量時間(MET)で、非活動的な群(0~3.5)、不十分に活動的な群(3.5超~7.5未満)、十分に活動的な群(7.5以上)の3群に分類した。人口統計学的要因、BMI、生活様式、合併症、使用した薬剤で調整後、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19による入院について、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて非活動的な群とほかの2群とのオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・6万1,557人(平均年齢75.7歳[SD 6.4]、女性70.7%)が回答した。そのうち20.2%は非活動的、11.4%は不十分に活動的、68.5%は十分に活動的だった。・2022年5月までに、COVID-19の確定症例は5,890例、うち入院が626例だった。・非活動的な群と比較して、不十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.96、95%CI:0.86~1.06)または入院リスク(OR:0.98、95%CI:0.76~1.28)に有意な減少はみられなかった。・一方、非活動的な群と比較して、十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.90、95%CI:0.84~0.97)および入院リスク(OR:0.73、95%CI:0.60~0.90)に有意な減少がみられた。・サブグループ解析では、PAとSARS-CoV-2感染との関連は性別によって異なり、十分に活動的な女性のみが感染リスクが低下している傾向があった(OR:0.87、95%CI:0.79~0.95、相互作用p=0.04)。男性では関連がなかった。・新型コロナワクチン接種状況で調整後に解析した場合も、非活動的な群と比較して不十分に活動的な群は、感染と入院のORはほとんど変化しなかった。・新型コロナワクチンは、PAレベルに関係なく感染と入院のリスクを大幅に減少させた。感染リスクはOR:0.55、95%CI:0.50〜0.61、p<0.001、入院リスクはOR:0.37、95%CI:0.30~0.47、p<0.001。

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